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 「夕方、あなたは、わたくしに、ガラスのおおいをかぶせてくださいな。あなたのところって、とても寒いのね。設備が悪いんだわ。わたくしの出身地では. . . 」
 しかし花は口をつぐんでしまった。種の形で飛んできたのだから、ほかの世界をぜんぜん知ることができなかったんだ。そんな単純なうそをつこうとしたことに驚き、恥ずかしくなった花は、悪いのはちいさな王子の方だとするために二、三度咳払いした。
 「あのついたては? . . . 」
 「それを取りにいこうとしてたけど、あなたがぼくに話しかけたから!」
 そのとき花はやはりかれを後悔させるために、わざと咳払いした。

 そういうわけでちいさな王子は、恋しい気持ちとはうらはらに、すぐに花を疑うようになってしまった。かれはたいしたことでもない言葉をまじめに受けとって、とても不幸になってしまった。
 「あの花の言うことを聞くべきじゃなかったんだ」かれはある日ぼくに打ちあけた。「花の言うことを決して聞いちゃいけない。花はながめたり香りをかぐべきものなんだ。ぼくの花はぼくの星をいい香りでつつんでいたけど、ぼくはその香りを楽しむことができなかった。ぼくをとてもいらいらさせたあの爪の話も、ぼくを感動させるはずだったのかもしれない. . . 」

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 かれはぼくにもっと打ちあけた。
 「ぼくはあの頃ぜんぜんわかっていなかったんだ! 花の言った言葉ではなく、してくれたことであの花を判断すべきだった。あの花はぼくを香りでつつみ、明るくしてくれていた。ぼくは決して逃げだすべきじゃなかった! あわれなうその後ろにある、あの花のやさしさをぼくは見ぬくべきだった。花ってそれほど矛盾してるんだ! でもぼくはちいさすぎて、どのようにあの花を愛したらいいかわからなかった」

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 ちいさな王子が逃避するために野生の鳥たちの渡りを利用したとぼくは思う。出発の朝、かれは自分の星をしっかりかたづけた。丁寧に活火山のすす払いをした。かれは活火山をふたつもっていた。それは朝食を温めるのにとても便利だった。死火山もひとつもっていた。しかしかれが言っていたように「先のことはだれもわからない!」 だから死火山も同じくすす払いをした。すす払いをきちんとすれば火山は穏やかに、規則正しく活動し、噴火しない。火山の噴火は煙突から火花が出るようなものだ。もちろん地球上ではぼくたちはあまりに小さすぎて火山のすす払いはできない。それで火山は多くの厄介事をひきおこすんだ。
 ちいさな王子は少し憂鬱そうに、バオバブの新しい芽も引きぬいた。かれはもう二度と戻るべきじゃないと思っていた。でもそれらのやりなれた仕事のすべてが、その朝かれにはきわめて甘美なものに思われた。そして最後にもう一度花に水をやり、ガラスのおおいで花をまもる準備をしていたとき、かれは泣き出したい気持ちになった。
 「さよなら」 かれは花に言った。
 しかし花は答えなかった。
 「さよなら」 かれはくり返した。
 花は咳をした。でもそれは風邪をひいているからではなかった。

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 「わたくし、ばかでした」 やっと花はかれに言った。「ゆるしてね。お幸せになって」
 非難しないので、かれはびっくりした。ガラスのおおいをもったまま、すっかりとまどって、そこに立ちつくしていた。かれはその穏やかなやさしさが、わからなかった。
 「もちろん、わたくし、あなたが好きよ」花は言った。「わたくしのせいで、あなたはそのことをぜんぜん気づかなかったのね。そんなことはどうでもいいわ。でもあなたもわたくしと同じくらいお馬鹿だったのよ。お幸せになって. . . そのガラスのおおい、そのままにしておいて。もういらないわ」
 「でも、風が. . . 」
 「わたしの風邪はそんなにひどくないの. . . 夜の涼しい風に吹かれると元気になるでしょう。わたくし、花ですもの」
 「でも、虫たちが. . . 」
 「毛虫の二、三匹は我慢しなくちゃ。チョウチョたちと知りあいになりたければね。チョウチョはとってもきれいらしいわ。そうしなければ、だれがわたくしを訪ねるの? 遠くにいくんでしょう、あなたは。大きなけものも、ぜんぜんこわくないわ。わたくし、爪があるんです」
 そして花は無邪気に四つのトゲを見せた。それからつけ加えた。
 「そんなにぐずぐずしないで。いらいらするわ。行くって決めたんだから、お行き」
 花は泣くところを見られたくなかったんだ。それほど強気な花だった。

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 かれは小惑星325,326,327,328,329、330のあたりに来ていた。そこですることを探し、学ぶために、かれはそれらの星を訪ねはじめた。
 最初の星には王さまが住んでいた。その王さまは深紅の服に白テンの毛皮を着て、とても簡素だが威厳のある玉座にすわっていた。
 「ああ、臣民が来たな!」 王さまがちいさな王子を見たとき大声で言った。
 ちいさな王子は不思議に思った。
 (かれはぼくに一度も会ってないのに、どうしてぼくのことがわかったんだろう!)
 王さまたちにとって、世界はとても単純にできていることを王子は知らなかった。すべての人間は臣民なのだ。
 「ちこう寄れ。よく見えるように」 ついにだれかの王さまになって、まったく鼻高々の王さまはかれに言った。
 ちいさな王子は目ですわるところを探したが、その星はすばらしい白テンのコートですっかりおおわれていた。だからかれは立ったままでいた。そして疲れていたのであくびをした。
 「王の面前であくびをするとは、礼儀作法に反する。おまえにあくびを禁止する」 王さまは言った。
 「あくびを我慢できませんでした」 ちいさな王子はすっかり恐縮して答えた。「ぼくは長旅をしてきて、眠っていなかったので. . . 」

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 「ならば、おまえにあくびを命じる」 王さまは言った。「わしは何年も前から、人があくびをするのを見たことがない。あくびはわしにとって好奇心をそそるものじゃ。さあ! もう一度あくびをしたまえ。命令じゃ」
 「気おくれして. . . もうできません. . . 」 ちいさな王子はすっかり顔を赤らめて言った。
 「ふむ! ふむ!」 王さまは答えた。「それでは、わし. . .わしがおまえに命じる。あるときはあくびをし、あるときは. . . 」
 王さまは早口になり少し口ごもり、気を悪くしたように見えた。
 なぜなら王さまは自分の権威が尊重されることを、どうしてもこだわっていたからだ。命令に従わないことは許しがたい絶対君主だった。しかしかれはとてもお人よしだったから、道理をわきまえた命令を下していたのだ。
 王さまはよく言っていた。「もしわしが将軍に海鳥になれと命じて、その将軍が従わないのならば、その将軍が悪いのではなかろう。それはわしが悪いのであろう」
 「すわっても、いいでしょうか?」 ちいさな王子は遠慮がちにたずねた。
 「すわるよう命じる」 王さまは答えた。そして白テンのコートのすそを、おごそかに引きよせた。
 ところでちいさな王子は意外に思っていた。その星はきわめて小さかった。いったいなにを王さまは統治できるんだろうか?

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 「陛下. . . おたずねしたいことがありますが. . . 」
 「たずねることを命じる」 王さまは急いで言った。
 「陛下. . . なにを統治していらっしゃるんですか?」
 「すべてじゃ」 きわめて簡単に王さまは答えた。
 「すべて?」
 王さまはさりげなく自分の星とほかの星たちを指さした。
 「あれらすべてですか?」 ちいさな王子は言った。
 「あれらすべてじゃ. . . 」 王さまは答えた。
 なぜなら王さまは絶対君主であっただけでなく、宇宙の君主でもあったのだから。
 「じゃあ、星たちは陛下に従うんですか?」
 「もちろんじゃ」 王さまは言った。「みんなすぐに従うぞ。わしは不服従を許さん」
 そのような権力にちいさな王子は驚いた。もし王子自身がそのような権力をもっていたなら、同じ日に自分のいすを決して引かずに夕日を四十四回どころか、七十二回でも、百回や二百回でさえ見ることがでただろうに! そしてかれが見捨てた小さな星を思い出して、少し悲しくなったので、思いきって王さまにお願いしてみた。
 「ぼくは夕日が見たいんです. . . ぼくを喜ばせてください. . . お日さまに沈むように命じてください. . . 」
 「わしがもし将軍に蝶のように花から花へと飛ぶようにとか、悲劇を書けとか、海鳥になれとか命じて、その将軍が命令を実行しないのならば、かれとわしのどちらが間違っているのじゃ?」

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 「それは陛下でしょう」 ちいさな王子はしっかり言った。
 「そのとおり。それぞれができることを、それぞれに要求しなければならない」 王さまはつづけた。「権威というものは、まず道理に基づいている。もしおまえが国民に、海に身を投げよと命じたら、革命になる。わしの命令が道理に基づいているから、わしには服従を求める権利があるのじゃ」
 「ところで、お願いした夕日は?」 ちいさな王子はかさねて言った。かれは一度質問したら決して忘れなかった。
 「おまえの言った夕日は、見せよう。わしがそれを要求しよう。しかしわしは統治するコツを重視するからのう。だから状況がよくなるまで待とう」
 「それはいつになりますか?」 ちいさな王子はたずねた。
 「さて!さて!」 王さまはかれに答えた。そしてまず大きな暦を調べた。「さて!さて! それは. . . だいたい. . . だいたい. . . 今晩の七時四十分ころじゃ! そのときどんなにわしの命令がよく守られているか、おまえにもわかるじゃろう」
 ちいさな王子はあくびした。かれは夕日を見そこなって残念だった。それにちょっともう退屈してきた。
 「ぼくはここでなにもすることがありません」 かれは王さまに言った。「また出発します!」
 「出発はならぬ」 王さまは答えた。臣民をもてて自慢だったのだ。「出発はならぬ。きみを大臣にしてやろう!」

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 「なんの大臣に?」
 「うーん. . . 法務大臣にだ!」
 「でも裁判にかける人はだれもいません!」
 「それはわからんよ」 王さまはかれに言った。「わしはまだわが王国をひと回りしていないのだ。わしはたいへん年をとったし、馬車をおく場所もない。歩くのは疲れるのじゃ」
 「ああ! でも、ぼくはもう見ちゃいました」 ちいさな王子は言った。かれは身を乗りだして、星の反対側をまたちらっと見た。「あちら側も、だれもいません. . . 」
 「ではおまえが自分自身を裁くがよい」 王さまはかれに答えた。「それは最も難しいぞ。他人を裁くより自分を裁くほうがずっと難しい。もしおまえが自分をちゃんと裁くなら、それはおまえが本当に賢者であるからじゃ」
 「ぼくは」 ちいさな王子は言った。「どこにいたって自分自身を裁けます。ここに住む必要はありません」
 「えへん!えへん!」 王さまは言った。「わしの星のどこかに年取ったねずみがおると思う。夜その音がするんじゃ。おまえはそのねずみを裁いてよい。ときどき死刑の判決を出す。したがって、ねずみの命はおまえの判決しだいになるだろう。しかしねずみの命は大切じゃから、そのつど恩赦を与える。ねずみは一匹しかおらんからのう」
 「ぼくは」 ちいさな王子は答えた。「死刑の宣告はいやです。ぼく、もう行きます」

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 「ならぬ」 王さまは言った。
しかしちいさな王子は準備をおえていて、年とった君主にもうつらい思いをさせたくなかった。
 「もし陛下がちゃんと命令に従うことをお望みなら、もっともな命令をお出しください。たとえば一分以内に出発せよ、という命令みたいに。ぼくには状況がよくなってると思えますが. . . 」
 王さまがなにも答えなかったので、ちいさな王子は最初ためらっていたが、ため息をついて、出発した. . .
 「わしはおまえを大使にするぞ」 そのとき王さまは急いで叫んだ。
 かれは威厳のある、もったいぶった様子だった。
 ( 大人ってとても変だ ) ちいさな王子は旅を続けながら思った。



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 二番目の星には、うぬぼれ屋が住んでいた。
 「あー! あー! わたしをほめる人が来たぞ!」 ちいさな王子を見かけるとすぐに、うぬぼれ屋は遠くから叫んだ。
 というのも、うぬぼれ屋にとって他人はみんな自分をほめる人なんだ。
 「こんにちは」 ちいさな王子は言った。「変わった帽子をかぶってるんだね」

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 「これは挨拶するためにある」 うぬぼれ屋は答えた。「喝采を受けたとき挨拶するためにあるんだ。残念ながらだれもここを通らないのだが」
 「ああ、そうなの?」 ちいさな王子はわからないまま言った。
 「拍手してよ」 うぬぼれ屋はすすめた。
 ちいさな王子は手をたたいた。うぬぼれ屋は帽子をもちあげて謙虚に挨拶した。
 ( これって、王さまのときより楽しいな ) ちいさな王子は思った。そしてまた手をたたきはじめた。うぬぼれ屋はまた帽子をもちあげて挨拶しはじめた。
 五分もそうしていたら単調な遊びだったので、ちいさな王子は飽きてきた。
 「それで、帽子をおろしてしまうには、なにをしなくちゃいけないの?」 かれは聞いた。
 しかし、うぬぼれ屋はかれの話を聞いていなかった。うぬぼれ屋というのは、ほめ言葉しか耳に入らないのだ。
 「きみは本当に、わたしに敬服しているのかな?」 かれはちいさな王子にたずねた。
 「敬服って、どんな意味?」
 「敬服はね、わたしがこの星で一番ハンサムで一番いい服を着て一番お金持ちで一番頭がいい、ということを認めることだよ」

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 「でもこの星には、あなたしかいないよ!」
 「あの楽しみをしておくれ。それでも敬服しておくれ!」
 「敬服するよ」 両肩をちょっとすくめて、ちいさな王子は言った。「でもそれがどうしてそんなに大事なの?」
 そして、ちいさな王子は立ち去った。
 ( 大人って確かに変だ ) かれは旅を続けながら、ただそう思った。


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 次の星には、酒飲みが住んでいた。その訪問はとても短かったが、ちいさな王子は大きな憂鬱をかかえてしまった。
 「そこでなにをしてるの?」 酒飲みに聞いた。かれはたくさんの空のビンとたくさんの酒のはいったビンの前で、黙ってすわっていた。
 「酒を飲んでるんだ」 酒飲みが沈痛な雰囲気で答えた。
 「どうして酒を飲んでるの?」 ちいさな王子はたずねた。
 「忘れるためだ」 酒飲みは答えた。
 「なにを忘れるためなの?」 ちいさな王子はたずねた。もうかれを哀れんでいた。
 「恥ずかしさを忘れるためだ」 酒飲みはうつむきながら打ちあけた。
 「なにが恥ずかしいの?」 ちいさな王子はかれを助けたいと思ってたずねた。

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 「酒を飲むのが恥ずかしいんだ!」 酒飲みは話しおえて、沈黙のなかに完全に引きこもった。
 ちいさな王子はとまどいながら立ち去った。
 ( 大人って確かに、とってもとっても変だ ) かれは旅を続けながら思った。


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 四番目の星はビジネスマンの星だった。その男はとても忙しくて、ちいさな王子がやってきても顔をあげさえしなかった。
 「こんにちは」 王子は言った。「タバコの火が消えてますよ」
 「三たす二は五。五たす七は十二。十二たす三は十五。こんにちは。十五たす七は二十二。二十二たす六は二十八。タバコに火をつけなおす時間がない。二十六たす五は三十一。ふう! 五億百六十二万二千七百三十一になった」
 「五億ってなにが?」
 「えっ? まだそこにいたの? 五億百万. . . わからん. . . 仕事がたくさんあるんだ! おれはちゃんとやる男だ。無駄話なんかしない! 二たす五は七. . . 」
 「五億ってなにが?」 ちいさな王子はくり返した。一度した質問は決してあきらめなかった。
 ビジネスマンは顔をあげた。

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 「この星に住んで五十四年間、三回しか邪魔されてない。
 最初は二十二年前、どこからかコガネムシが落ちてきた。それはブンブンひどい音をたてて、四回たし算をまちがえた。 二度目は十一年前、リューマチの発作がおきた。運動不足だった。散歩するひまがない。おれはちゃんとやる男なんだ。三度目は. . . 今回だ! さて五億百万. . . だったか. . . 」
 「五億ってなにが?」
 ビジネスマンはもう静かにしてもらえないことを理解した。
 「なにが五億って、ときどき空に見える、あの小さいものだよ」
 「ハエ?」
 「違う。 きらきら光る小さいものだ」
 「ハチ?」
 「違う。 怠け者に夢を見させる金色で小さいものだ。しかしおれはちゃんとやる男なんだ! 夢を見てるひまなんかない」
 「ああ! 星だね?」
 「そうさ。星だよ」
 「それで、五億の星をどうするの?」
 「五億百六十二万二千七百三十一。おれはちゃんとやる男なんだ。おれは几帳面なんだ」
 「その星たちをどうするの?」
 「どうするかって?」
 「そう」
 「どうもしないよ。おれはそれらを所有してるんだ」

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 「星たちを所有してるの?」
 「そうだ」
 「でも、ぼくは前に王さまに会って. . . 」
 「王さまというのは所有しない。かれらは『支配する』のだ。これはたいへん違う」
 「じゃあ星たちを所有すると、なんの役にたつの?」
 「おれが金持ちになるのに役にたつ」
 「じゃあ金持ちになると、なんの役にたつの?」
 「ほかの星が買える。だれかがそれを見つけたらな」
 ちいさな王子は思った。( この人はあの酒飲みのような理屈をすこし言ってる ) 
 けれども、さらに質問した。
 「どうしたら星たちを所有できるの?」
 「それらはだれのものなんだ?」 ビジネスマンは気むずかしげに聞き返した。
 「知らない。だれのものでもない」
 「じゃあおれのものだ。おれが最初に所有することを考えたから」
 「それで充分なの?」
 「もちろんだ。だれのものでもないダイヤモンドをきみが見つけたら、それはきみのものだ。だれのものでもない島をきみが見つけたら、それはきみのものだ。最初にアイデアをきみが思いついたら、特許をとる。それはきみのものだ。そしておれはといえば、星たちを所有してるんだ。おれより先にそれらを所有しようと考えた人がだれもいなかったからだ」

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 「それはそうだね」 ちいさな王子は言った。「それで星たちをどうするの?」
 「おれはそれらを管理している。それらを数える。また数えなおす」 ビジネスマンは言った。「これは難しい。だがおれはちゃんとやる男だ!」
 ちいさな王子はまだ納得していなかった。
 「ぼくはね、もしスカーフを所有してたら、首にまいてもち歩ける。もし一輪の花を所有してたら、それを摘んでもち歩ける。でも星たちは摘めないよ!」
 「そう。だがそれらを銀行にあずけられる」
 「それ、どういう意味?」
 「それはちいさい紙に星の数を書くことだ。そしてその紙を引き出しのなかにいれて鍵をかけるのさ」
 「それですべて?」
 「それで充分だ!」
 ( これはおもしろい ) ちいさな王子は思った。 ( けっこう詩的だけど、大事ということではないね )
 ちいさな王子は大事なことについて、大人たちとたいへん違う考えをもっていた。
 「ぼくはね」 ちいさな王子はふたたび言った。「ぼくは一輪の花を所有していて、毎日水をやっていた。三つの火山を所有していて、毎週すす払いをしていた。死火山もすす払いをしたのは、先のことはだれもわからないから。ぼくがそれらを所有していることは、ぼくの火山に役にたつし、ぼくの花にも役にたつんだ。でもあなたは星たちの役にたってないよ. . . 」

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 ビジネスマンは口をひらいたが、返事がぜんぜん見つからなかった。そこでちいさな王子は立ち去った。
 ( 大人って確かに、まったく奇妙だ ) かれは旅を続けながら、ただそう思った。


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 五番目の星はとても変わっていた。それはすべての星のなかで一番小さかった。そこは一本の街灯とひとりの点灯人のための場所しかなかった。天体のどこかの、家も住人もいない星で、街灯と点灯人がなんの役にたつのか、ちいさな王子にはなかなかわからなかった。それでもかれは考えた。
 ( きっとこの人もわけがわからない人かもしれない。でもかれは王さまやうぬぼれ屋やビジネスマンや酒飲みより、わけがわからないことはない。少なくともかれの仕事には意味がある。かれが街灯をともすと、星をさらにひとつ、花をさらに一輪、かれが生みだすようなものだ。かれが街灯を消すと、花や星は眠るんだ。これはとてもすてきな仕事だね。すてきだから、ほんとうに役にたっているんだ )

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 かれがその星に着くと、点灯人に敬意をこめてあいさつした。
 「おはよう。どうしていま街灯を消したの?」
 「指示なんだよ」 点灯人は答えた。「おはよう」
 「指示ってなに?」
 「街灯を消すことだよ。こんばんは」
 そしてかれは街灯を再びともした。
 「でも、どうしていまそれを再びともしたの?」
 「指示なんだよ」 点灯人は答えた。
 「ぼくは理解できない」 ちいさな王子は言った。
 「理解できなくていい」 点灯人は言った。「指示は指示なんだ。おはよう」
 そしてかれは街灯を消した。
 それからかれは赤いチェックハンカチでひたいをふいた。
 「ひどい仕事なんだよ。以前はもっとましだった。朝に消して、晩にともす。昼は休みがあったし、夜も眠れた. . . 」
 「じゃ、そのあと指示が変わったの?」
 「指示は変わっていない」 点灯人は言った。「悲劇はそこにあるんだ! この星は年々ますます速く回っているのに、指示は変わっていない!」
 「それで?」 ちいさな王子は言った。
 「それで、いまこの星は一分間に一回転する。わたしには一秒も休みがない。一分ごとにともしたり消したりするんだ!」

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 「それっておかしいよ! この星は一日が一分なんだ!」
 「ぜんぜんおかしくないよ」 点灯人は言った。「いっしょに話してから、もう一ヶ月たってるよ」
 「一ヶ月?」
 「そう。三十分。三十日! こんばんは」
 そしてかれは街灯をともした。
 ちいさな王子はかれを見て、指示にそれほど忠実な点灯人が好きになった。かれは以前、いすを引っぱって夕日を追いもとめていたことを思い出した。かれの友だちを助けたいと思った。
 「ねえ. . . ぼく、休みたいとき休む方法を知ってるんだ. . . 」
 「いつでも休みたいよ」 点灯人は言った。
 人は忠実であると同時に怠け者でもありえるんだからね。ちいさな王子は続けて言った。
 「きみの星はとてもちいさいから、三歩大股で歩けば一周できる。かなりゆっくり歩くだけで、いつも日のあたるところにいられる。休みたいときは、歩けばいい. . . そうしたら、すきなだけ昼間が続くよ」
 「それは大して役にたたない」 点灯人は言った。「わたしの人生で好きなこと、それは眠ることなんだ」
 「しかたがないね」 ちいさな王子は言った。
 「しかたがないよ」 点灯人は言った。「おはよう」
 そしてかれは街灯を消した。

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 ちいさな王子はさらに遠くに旅を続けながら思った。 ( あの人はほかのみんなから軽蔑されるだろう。王さまからも、うぬぼれ屋からも、酒飲みからも、ビジネスマンからも。にもかかわらず、滑稽に思われない唯一の人だ。それはたぶん、あの人がかれ自身以外のことに携わっているからだろう )
 ちいさな王子は未練がましくため息をつき、さらに思った。
 ( あの人はぼく の友だちになれたかもしれない唯一の人なのに。でもかれの星は本当に小さすぎる。二人分の場所はないんだ. . . )
 ちいさな王子があえて認めたくなかったこと、それはとりわけ二十四時間に千四百四十回、夕日を見られるという恵みのあるその星に、未練を残していたことだった!


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 六番目の星は十倍も広い星だった。そこには年とった紳士が住んでいて、とても大きな本を書いていた。
 「おや! 探検家が来たな!」 かれはちいさな王子を見かけると叫んだ。
 ちいさな王子はテーブルの上にすわって、すこし一服した。かれはずいぶん旅をしてきたんだ!
 「どこから来たんじゃ?」 年とった紳士はかれに言った。

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 「このぶ厚い本はなに?」 ちいさな王子は言った。「ここでなにをしてるの?」
 「わしは地理学者じゃ」 年とった紳士は言った。
 「地理学者ってなに?」
 「海や川や町や山や砂漠がどこにあるのか知っている学者のことじゃ」
 「それってとっても面白そうだ」 ちいさな王子は言った。「これこそ本当の仕事なんだ!」 そして地理学者の星をちらっと見まわした。こんなに威厳のある星を、いままで見たことがなかった。
 「きれいだな、あなたの星は。大きな海はありますか?」
 「わからんのじゃ」 地理学者は言った。
 「ああ! (ちいさな王子はがっかりした) じゃあ山は?」
 「わからんよ」 地理学者は言った。
 「じゃあ町や川や砂漠は?」
 「それもわからんのじゃ」 地理学者は言った。
 「でもあなたは地理学者でしょ!」
 「そのとおりじゃ」 地理学者は言った。「しかしわしは探検家じゃない。探検家がまったく不足しておる。町や川や山や海や大洋や砂漠の報告をすることなんか地理学者はしない。地理学者はとても偉いから、ぶらぶら歩かないのじゃ。研究室を離れずにおる。だが探検家たちをそこに迎える。かれらにたずねて、かれらの記憶をノートにとる。そしてかれらのなかの一人の記憶に興味が引かれたら、地理学者はその探検家がおこないのよい人かどうか、調査させるんじゃ」

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 「どうしてそうなの?」
 「うそをつく探検家は地理の本に大惨事をもたらすんじゃ。大酒飲みの探検家も然りじゃ」
 「どうしてそうなの?」 ちいさな王子は言った。
 「酔っぱらいは物が二重に見えるからじゃ。それで地理学者は山が一つしかないところに、二つと書きとめてしまうじゃろう」
 「ぼく、ある人を知ってるよ」 ちいさな王子は言った。「その人はわるい探検家になりそうだ」
 「そうかもな。さて、探検家の品行がよいと思われたら、かれの発見について調査するんじゃ」
 「見にいくの?」
 「いやいかん。それは大儀じゃ。だが、探検家に証拠の提出を求める。たとえばその発見が大きな山の場合、そこから大きな石をもってこさせるんじゃ」
地理学者は急に興奮しだした。
 「ところできみ、遠くから来たんだよね! 探検家だよね! わしにきみの星のことを述べてくれ!」
 そして地理学者は登録簿をひらいて、鉛筆を削った。まず探検者の話を鉛筆で書きとめる。その探検家が証拠を提出するのを待って、インクで清書する。
 「それでは?」 地理学者は質問した。
 「えっと、ぼくのところは」 ちいさな王子は言った。「あまりおもしろくないよ。とってもちいさいんだ。火山が三つあって、二つは活火山で一つは死火山なんだ。でも先のことはだれもわからない」

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 「だれもわからないんじゃ」 地理学者は言った。
 「花も一輪あるよ」
 「わしらは花なぞ書きとめないんじゃ」 地理学者は言った。
 「どうしてさ! 一番きれいなんだよ!」
 「花というものは、はかないものなんじゃ」
 「『はかない』ってどんな意味?」
 「地理学書というものは」 地理学者は言った。「あらゆる書物のなかで最も確かなものじゃ。それは決して時代遅れにならない。山が場所をかえるのはまれじゃ。大海の水がからになるのもまれじゃ。わしらは永遠なるものを書いておる」
 「でも死火山は目を覚ますかもしれないよ」 ちいさな王子は話をさえぎった。「『はかない』ってどんな意味?」
 「火山が消えていようと目を覚ましていようと、わしらにとっては同じことじゃ」 地理学者は言った。「わしらにとって重要なのは山なんじゃ。それは変化しない」
 「ところで『はかない』ってどんな意味?」 ちいさな王子はくり返した。一度した質問は決してあきらめなかった。
 「それは『いずれ消えてなくなる』という意味じゃ」
 「ぼくの花はいずれ消えてなくなるの?」
 「もちろんじゃ」
 ( ぼくの花は、はかないんだ ) ちいさな王子は思った。

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